Artists Interview #3

モノの見方を変え、町ぐるみで「楽(らく)して」「楽しむ」~21世紀、そして未来への仕組みづくり~

町田 佳路(まちだ けいじ)さん 
大森山王ブルワリー MobilExSchool合同会社 代表 / プロデューサー

Profile

大学卒業後、様々な広告やメディアのWEB事業に従事し、2011年ウルサイ株式会社を設立。受託制作の仕事をしながら、自分の子どもたち世代に、まちの中で楽しいことを通じて学びや体験を提供できないかと地域イベントなどを行う。その中で、事業化することで、もっと地域に貢献できることがあるのではと、2018年MobilExSchool合同会社を設立。地域発のクラフトビール事業を興し、現在に至る。

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ひとりでできることには限界があるから、ひとの力を借り、ひとに託す
町の人たちが集まって、一緒に「楽(らく)」して「楽しむ」仕組み

船木:町田さんは、町づくりに関わるところで、これまでに2社起業されていらっしゃいますね。きっかけや経緯を教えてください。

町田:2011年、1社目のウルサイ株式会社起業は、東日本大震災がきっかけでした。もっと家族の近くにいたいと思うようになり、会社に拘束される働き方に疑問を感じたのです。何か具体的な事業を志したというより、フレキシブルに時間がつくれる環境を求めたと言うべきでしょうか。

当時、私の子供は2歳でした。子育てをしながら働くために、町に日頃から世代を超えて集まれる場所があればいいなと思ったのです。両親もいずれ年を取ります。町の人が集まって、それぞれが「楽(らく)をできる」仕組みが作れたらと。
「楽をする」ことを「サボっていて、いけないこと」のように感じる方もいるかもしれません。しかし、子育てや介護などを、自分だけではなく町や地域の色々な人の力を借りながらやっていく。そのような「楽ができる」仕組みが定着すれば、罪悪感をおぼえることなく、心理的・物理的な負担を抱え込みすぎずに、子供の未来を創ること、親世代と関わりを持つこと、そして何よりも、その人がひとりの人間として、楽しく健やかにいられることにつながると思ったのです。
ひとりでできることには限界がありますから、人の力を借りる、人に託すということも大切で、それを「楽に」「楽しく」できる町のインフラをつくりたいと思いました。

船木:2社目のMobilExSchool合同会社の設立は、DOORプロジェクト*在学中だったのですね。

町田:はい、2018年に立ち上げました。DOORプロジェクトの最終発表会で「ビールやります」宣言をした記憶があります(笑)。ビールを取り上げたのは、わかりやすいものを“ツール”として使いたいと思ったためです。人々が「参加すること」に躊躇しないよう、障壁を下げたかったのです。

コミュニティづくりの中で、わかりにくいものはなかなか受け入れてもらえないという悩みがありました。アートなどもそうですが、テーマを掲げても、難しそうだと思われて、なかなか参加してもらえなかったりします。シンプルでわかりやすいものの方が、人々は関わりやすいのです。
もちろん、単にシンプルであればいいというものではありませんが、多くの方に関わってほしいコミュニティに、「ビール」というシンプルなツールを採り入れたのは良かったと思います。

船木:大森山王ビールは、素敵なデザインですね。谷崎潤一郎の作品にちなんだ、NAOMI、GEORGEといったネーミングも趣があります。

町田:100年前に描かれた、大森が舞台となった谷崎潤一郎の「痴人の愛」から拝借しました。

デザインなどについて、私自身は、実はそこまで強いこだわりはありません。表現したいカタチはこちらで考えてお伝えしますが、そのあとは、大森山王ブルワリーのビールパッケージデザインも、デザイナーの世界観に託しました。
自分は“アプローチするまでのプロセス”が好きなので、一つ一つのデザインは、色々な人の意見を聞いて決めればいいと思っています。ただし、「自分が腑に落ちる」ということはとても重視しています。代表として周囲に説明するのに、自分の中で理解して腑に落ちていないと、正確に伝わりませんから。“モノが生まれる過程・流れ”の部分については、徹底的にこだわります。

同じ目的をもった人々が集まる“社(やしろ)”、「サンデーカンパニー」
仲間の脳みそを通じて、見えなかった世界に気づく
「能力」より「意志」を尊重

船木:ビール事業と共に始められた「サンデーカンパニー」とは、どのような活動なのでしょうか?

町田:「サンデーカンパニー」は、定年退職したシニア、就業から離れた子育て中の女性、加えて副業やビール、地域コミュニティに興味がある、以前大森で働いていて異動したけれど、ちょっと関わりたいなど、様々な意志を持った人たちが、日曜日だけ働くという構想です。そのような大森地域に関わる人たちと、月2回日曜日に集まり、「大森山王ブルワリーは、ビールを通じて、どのような価値・体験・時間を町に提供していくか」を考え、実行し、検証しながら、どんどんブラッシュアップしていく。会社の肝である経営戦略を、町の人たちと一緒に行うプロジェクトです。

サンデーカンパニーが無ければ、今の自分は無いと思います。私にとってこれはまさに、“脳みその拡張作業”です。「違う人の脳を通して、世界を見る体験」をしています。同じ目的をもって集まった仲間ひとりひとりの、自分とは違う人の脳を体感しながら、気づくことは多いですね。
アーティストに例えていえば、それぞれの人生で様々なものに影響を受けて、そこから“流れ”を創り出し、“作品”につなげているのだと思います。少し恥ずかしいですが、私も世の中に何かを出す時、それは、自身の生きざまから得た体験の数々、そこから創り出した流れからの“作品”でありたいと、意識しています。

船木:どのように仲間集めをされているのですか?

町田:先着順です。サンデーカンパニーでは、“能力”よりも“意志”を尊重します。
“会社”について考えた時。主従関係に似た「雇用」の関係で本当にいいのだろうか? という疑問がありました。社(やしろ)とは本来、同じ目的を成し遂げたい仲間が集まるところです。参加者が本当にやりたいこと、実現したらいいなと思うこと。それらを自分たちの手で創っていくことで、相乗効果が生まれると思うのですが、いわゆる組織に勤務していると、なかなか経営に関わることもなく、「働かされている」感じが払拭しにくい、と。

サンデーカンパニーでは、会社員・主婦・町のワイン屋さんなど、様々な人達が一緒に一つのものを創っていくこと自体が面白いです。それを“主従関係”にしないため、選考して採用することもしていません。メンバーは先着順。“能力”よりも“意志”を尊重したいのです。仕事として“いいもの”を作るためには職能的なスキルが必要な場面もあると思いますが、時として、“意志”がそれを凌駕する場面があると思うのです。ないものを求めようとするのではなく、そこにあるもので何とか工夫していく発想は、地域という場と相性が良いように思います。

船木:様々なバックグラウンドの人たち。主従関係のないカンパニー。そこで新しいものを生み出す難しさはありませんか?

町田:みんなで決めたことを実際に形にしていくのが私の仕事なので、プレッシャーを感じることもありますが、責任感と、いい意味での緊張感を持ちながらやっています。
「小さな意見でも出たものを拾う」「私も“一参加者”として、積極的に参加する」ことを心がけています。ワークショップという名の、目的を持った、真面目な飲み会のようなイメージかもしれません。サーバースタンドから、みんなビールを注いで持ち寄って議論しますしね(笑)

「個としての自分」を失わない時間と居場所

町田:現在、“イクメン”という言葉もあるように、「土日は家族と過ごすこと」を推奨する風潮があるように感じます。もちろん、それも大切だと思うのですが、もっと「その人個人」の時間があってもいいのではないかと思うのです。
町づくりに取り組んでいると、町や道で、「◯◯君の、お母さん」「××会社の部長さん」「呼ばれる時は苗字」というシーンが殆どで。そうではない「個としての名前」もあるといいな、と。ともすると、現実は“家庭と職場だけ”のようなバランスになりがちですが、「個としての自分」でいられる時間や居場所が増えることで、偏りがちなバランスに、変化が出てくることもあるのではないでしょうか。

決して役割や属性を否定しているわけではありませんが、それとはまた違う「個としての自分」もいると思うのです。サンデーカンパニーは、「個としてのメンバー」の集まりです。毎回アイディア出しや議論でヘトヘトになります。それだけそれぞれの人の中の純粋な部分から、熱いものが出てきて反応し合っているのでしょうね。

経営者はアーティスティックでありたい

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町田:「アート経営」という言葉が昨今流行っていますが、どこまで本質が理解されているのか、疑問に思うことがあります。アーティスティックであること。それは本来、経営者の当たり前だと思うのです。社会に対して価値を提供することが、経営ですから。

本質的には、世の中の人たちに価値を提案して、受け入れてくださる人が一人でもいたら、やってみたい。それが一番の楽しみと思うところです。その表現方法が、絵であったり、音楽であったり、経営であったりするのではないでしょうか。
コミュニティを継続していくには、正直、難しいこともたくさんあります。それでも続けることができているのは、好きだから。毎回、現実に何らかの「インパクトを与えたい」と考えています。サンデーカンパニーの取り組みについても、いいと思った方が真似をしたり形を変えたりしながら、他の場所でも拡がっていけばいいなと思っています。

DOORプロジェクト*を受講した4年前、監修する日比野克彦先生と会話をした中で、いただいた言葉が印象に残っています。

「課題解決するのがベンチャーだとしたら、それはもはやベンチャーではないのでは? 課題解決しなくていいのではないか?」
「課題がなくなると皆が思っていること自体が、思い込みで、課題自体はなくならない。」

アーティストである日比野先生からは、視点を変えることで課題が課題でなくなること。また、存在する「課題」を「解決」しようとしている時点で、それは新しい「価値」を創り出していないということを教わりました。世の中のおかしいと思う様々な“?(はてな)”に対して、自分の身近にあるものを、できる限りいい形で活かして、アプローチをしたいのです。自分が一番こだわりを持ってやり続けたいと思っているところはそこで、今も昔も変わりません。

明治維新由来のインフラを、21世紀に塗り替えていく
モノの見方を変えて、仲間と共に創る未来

船木:これからの目標や想いについて、お聞かせください。

町田:まずは、自分たちのクラフトビール工場を作るというのが目標です。ビールはあくまで、1つの切り口ですが。

中長期的には、21世紀に即した、町のインフラをつくりたいですね。
私たちは、基本的な社会構造の部分では、明治維新後に創られた仕組みの中で生きています。学校以外でも、病院や銀行、会社など、明治の人々が一生懸命つくった世界観の中にいるわけです。維新から150年。そろそろ今の時代に即した仕組みに、塗り替えを考えてもいい頃なのではないかと。

社名のMobilExSchoolに“school”とあるように、学校への課題意識もあります。昔の学校は、先生が素晴らしかった。今は動画で、いくらでも素晴らしい人を見つけて、自分で学べる時代です。では、今の学校の役割とは何なのだろう?病院もそうです。治療したり、薬を処方したりするだけで良いのだろうか?
まずは「サンデーカンパニー」という形で、これまでの「会社」という概念で“?(はてな)”と思う部分にアプローチし始めました。それ以外に先程挙げたインフラについても、今の私たちが“楽しく生きる”ことができるように、少しずつ、見直して形を変えていってもいい頃ではないかと思うのです。
「課題を解決する」のではなく、「楽(らく)に」「楽しく」、モノの見方を変えていくということでしょうか。
同じような想いを持つ仲間は、案外いるのではないか? そう、思うのです。

*東京藝大 DOORプロジェクト(Diversity on the Arts Project (DOOR)

インタビュー後記

ご自身を“プロデューサー”とおっしゃる町田さん。「ひとりでできることには限界があるから、ひとの力を借り、ひとに託す」とし、同じ目的と意志を持つ仲間と共に新しいものを創り続けてこられた様々なストーリーに、感銘を受けました。
これから先も、世にある様々なものに対して問い、モノの見方を変え、おかしいと思う“?(はてな)”に対し、楽しみながら新しい価値を提案・提供し続けていかれることを、確信しています。

写真撮影:柿田 京子
撮影場所:アキナイ山王亭