「間合い」の藝術

先週末から今週にかけて、劇団東俳の公演に出演してきました。シェイクスピアの喜劇「真夏の夜の夢」。出演者は3歳から60代までさまざまな世代が入り乱れ、力を合わせてひとつのお芝居を創ります。このたび初舞台を踏ませていただいた柿田京子、本日は、舞台での気づきをつぶやいてみたいと思います。

劇団東俳 ファミリー劇場「真夏の夜の夢」

ひとことで言えば、演劇の舞台は、壮大な“間合いの藝術”です。「間合い」とは、距離や時間の適度な頃合い。空間の中でしっくりとハマる立ち位置、動き。台詞の掛け合いの中で、しっくりくる速度、緩急。剣術や音楽、舞踊の世界でもよく使われる言葉です。

ドラマや映画などの映像は、1分程度の瞬間演技を繰り返しながら撮り溜め、編集して仕上げます。間違えれば、何度でも撮り直すことができます。これに比べて、リアルの舞台は一発勝負。一度始まると幕が下りるまで、たとえ何が起ころうと、走り続けて完成させなければなりません。

今回は30名を超える役者、音響、映像、照明、その他多くのスタッフとの協働プロジェクト。全12公演にダブルキャストで臨みました。皆、できる限り“予定どおり”を目指すのですが、人間が完全に同じことを繰り返すのは難しく、かなりの頻度で“予定外”が発生します。台詞が飛んだ、違う台詞を言った、声が上ずった、立ち位置が違った、床に小道具が落ちた、足元がフラついた、照明のまぶしさに思わず目を細めた、お客さまの声援に反応して視線を動かしたなどなど。この、数えきれないほどの「おっと」「ヒヤリハット」を併せ持ちながら、ひたすらフィナーレへ向けて、全員で走り続けるのです。

舞台に上がれば私語はできません。言葉でのコミュニケーションが絶たれた世界で、皆でひたすら「間合い」を見極め、何か起こるその場を瞬時に上手くまとめながら、最高の調和を目指します。ベテランの役者は、この間合いのハンドリングに見事に長けています。

日頃のレッスン時でも、間合いを意識するトレーニングがありました。殺陣の時間。向き合った相手が押してくるのか、引こうとしているのか、その思惑を推し量らいながら、自分の出方を瞬時に決めていきます。本物の剣術、真剣勝負の世界では、察することができなければ斬られてしまいます。役者の世界でも、呼吸が合わなければ怪我につながりかねません。

心を落ち着かせ、クラス全員でひたすらスタジオのエアコンの音に集中、間合いを感じつつ、順番を決めずに数をカウントしていくというレッスンもありました。「ここで自分が言えるな」という瞬間を、さっと見極めて、調和を乱さず行動に移す。この訓練は、私が体験した最高のチームワークトレーニングでもありました。

心を合わせつつも、出るべき場では、自分のエネルギーを全力で爆裂させる瞬間も必要。場合によっては、仲間をサポートして引っ張ることも必要。持ちつ持たれず、理想をめざしていく。舞台には、そっくりそのまま、現実世界へあてはめることのできる大きな学びと気づきがあったのでした。

「この世は舞台、人はみな役者だ」―シェイクスピア